2013年出版社アンケート / IRIS


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2014年3月

<調査報告書>2013年 電子書籍アクセシビリティに関する出版社アンケート

青木千帆子、池下花恵、植村要(立命館グローバル・イノベーション研究機構)
松原洋子(立命館大学大学院先端総合学術研究科)




<調査報告書>2013年 電子書籍アクセシビリティに関する出版社アンケート

立命館グローバル・イノベーション研究機構 青木千帆子、池下花恵、植村要
  立命館大学大学院先端総合学術研究科 松原洋子
  Ritsumeikan Global Innovation Research Organization Chihoko AOKI, Hanae Ikeshita-Yamazoe, Kaname UEMURA
  Ritsumeikan Graduate School of Core Ethics and Frontier Sciences Yoko MATSUBARA

1. 調査の背景と目的

 電子書籍市場の拡大にともない、これまで点字図書や録音図書に頼って読書を行ってきた視覚障害者、上肢等に不自由のある人、読字障害の人(以後、読書障害者)も、一読者として書籍を購入し利用する事が期待されます。そのためには、電子書籍ならではの、文字の拡大機能や音声読み上げ機能といった「アクセシビリティ機能」が必要となります。私どもは2011年に電子出版制作・流通協議会、日本電子出版協会、日本電子書籍出版社協会(五十音順)加盟で書籍を中心に出版を行なっている135社を対象に、電子書籍のアクセシビリティに関するアンケートを実施しました。このうち、71社から回答を得て結果を学術雑誌に公表しております(http://r-iris.jp/document/pg93.html)。

 上記の調査結果をうけて、出版社のアクセシビリティに関する考えの推移を調査するため、本アンケート調査を実施しました。

2. 調査の概要

  • 実施主体:立命館グローバル・イノベーション研究機構プログラム「電子書籍普及に伴う読書アクセシビリティの総合的研究(IRIS)」
  • 調査期間:2013年2月15日~2013年3月31日、2013年5月30日~6月31日
  • 調査対象:一般社団法人日本電子書籍出版社協会に所属する出版社、2) 一般社団法人電子出版制作・流通協議会に所属する出版社、3) 日本電子出版協会出版社のうち、電子書籍を販売している出版社、合計102社。うち回答があったのは41社。
  • 質問項目:
    1. 御社は今までに、電子書籍を出版したことはありますか。
    2. 電子書籍は次のうちどのようなデータ形式で出版されましたか。
    3. EPUBを採用している出版社にお伺いします。御社の販売しているEPUB3はリフロー型ですか、フィックス型ですか。またフィックス型の場合、テキストデータは埋め込まれていますか。
    4. 御社の電子書籍データはどこで制作を委託されましたか。
    5. 御社の電子書籍データにDRMは用いていますか。(複数回答可)
    6. 読書障害者のアクセシビリティに配慮した電子書籍を出版する場合、御社はどのような方法で対応、あるいは検討されますか。
    7. アクセシビリティに配慮した電子書籍の出版を困難にしている要因は、何であるとお考えでしょうか。
    8. その他、電子書籍に関して御社のご意見がございましたら自由にお書きください。

3. 結果

設問1 電子書籍出版経験

 結果を図1に示す。回答のあった41社のうち電子書籍の出版経験がある出版社は37社、90%であった。

*画面上はここに図1が掲載されています
図1 電子書籍出版経験
設問2 電子書籍のデータ形式

 選択肢は、1.画像PDF 、2.テキストつきPDF、3.XMDF 、4.EPUB 、5..book、6.MCC、7.キンドル形式、8.その他である。回答は、複数回答可として該当するもの全ての回答を求めた。

 結果を図2に示す。2013年版アンケートではEPUBによる出版が最も多く26件となった。続いてXMDFによる出版が24件、画像PDFおよび.bookによる出版が22件あった。新しく登場したキンドル形式も22件である。続いてテキスト付PDFが17件、MCCが6件という回答であった。その他という回答は3件あり、iPhone用アプリが2件、画像独自フォーマット が1件であった。

*画面上はここに図2が掲載されています
図2 電子書籍のデータ形式
設問3 EPUBの形式

 設問2でEPUBを採用していると回答した出版社26社に対しては、さらにEPUBの形式について質問した。選択肢は、リフロー型、フィックス型でテキストデータのあるもの、フィックス型でテキストデータのないもの(いわゆるスキャン画像)の3つである。回答は、複数回答可として該当するもの全ての回答を求めた。

 結果を図3に示す。ここではリフロー型が27件、フィックス型でテキストデータのあるものが10件、フィックス型でテキストデータのないものが15件という回答であった。

*画面上はここに図3が掲載されています
図3 EPUBの形式
設問4 電子書籍データを制作した主体

 選択肢は、自社、出版デジタル機構、出版デジタル機構以外の出版印刷系制作会社、販売プラットフォーム、自炊業者、その他であった。回答は、複数回答可として該当するもの全ての回答を求めた。

 結果を図4に示す。回答が最も多かったのは出版デジタル機構以外の出版印刷系制作会社で27件、次いで自社が21件である。続いて販売プラットフォームが14件、出版デジタル機構は7件であった。自炊業者に委託している事例はなく、その他という回答は「iOS用アプリ開発会社」1件であった。

画面上はここに図4が掲載されています
図4 電子書籍データを制作した主体
設問5 DRMの有無

 結果を図5に示す。結果、DRMを付与しているという回答が33件、付与していないという回答が6件であった。また同一出版社において、DRMを付与して販売して販売する本と付与せず販売する本と双方があると思われる事例(=複数回答している出版社)は2件であった。

 また、自由記述欄において、「著作権者の権利保護の観点から、完全にDRMフリーにすることも特に国内では難しい」「ストア横断型のDRMが導入されると良い」といった、DRMに関連する記述が見られた。

画面上はここに図5が掲載されています
図5 DRMの有無
設問6 アクセシビリティへの対応方法

 結果を図6および表1に示す。最も回答が多かったのは、「電子書籍を音声読み上げ対応のストアで販売する」の14社(2011年版データ割合18%→2013年版データ割合31%、以後数値のみ表記)であり、次いで、「この種の電子書籍の出版を検討していない」の12社(35%→26%)であった。

 続いて多かったのが、「関心はあるが、具体的な方法が判らない」の8社(27%→17%)である。「求めのあった個人・図書館等に対し書籍本文のテキストデータを提供する」は8社(16%→17%)、「電子書籍をDRMフリーで販売し支援デバイスで利用してもらう」の4社(4%→9%)という結果となった。

画面上はここに図6が掲載されています
図6 アクセシビリティへの対応方法
表1 アクセシビリティに関する意識の変化
表1の説明

以下の表では、1番目の列が設問項目の設問6と設問7、2番目の列が回答結果、3番目の列が2番目の列の回答結果に対する2011年の回答割合、4番目の列が2番目の列の回答結果に対する2013年の回答割合を表示する。

設問項目 回答結果 2011年 2013年
設問6:アクセシビリティに配慮する方法 1. 電子書籍を音声読み上げ対応のストアで販売する(BookPlace等) 14(18%) 14(31%)
2. 電子書籍をDRMフリーで販売し、各々に使い勝手の良い支援デバイスで利用してもらう 3(4%) 4(9%)
3. 求めのあった個人または図書館等に対し、書籍本文のテキストデータ*を提供する(*視覚障害者などが、音声読み上げや点字などの支援機器で利用するためのプレーンなテキストデータ) 12(16%) 8(17%)
4. 関心はあるが、具体的な方法が判らない 21(27%) 8(17%)
5. この種の電子書籍の出版を検討していない 27(35%) 12(26%)
設問7 アクセシビリティに配慮した電子書籍の出版を困難にしている要因

 選択肢は「手間・コスト」、「著作権処理」、「販売ストアが音声読み上げなどの機能に未対応」、「アクセシビリティに関する情報が不足していること」である。

   結果を、図7および表2に示す。「手間・コスト」を理由にあげる出版社が29社(35%→38%)、「ストアの未対応」を理由にあげる出版社が16社(16%→21%)、「アクセシビリティに関する情報不足」を理由としてあげる出版社が16社(22%→21%)、「著作権処理に関する問題」を理由としてあげる出版社が15社(27%→20%)であった。

画面上はここに図7が掲載されています
図7 アクセシビリティに配慮した電子書籍の出版を困難にしている要因
表2 アクセシブルな電子書籍の出版を困難にしている要因の変化
表2の説明

以下の表では、1番目の列が設問項目の設問6と設問7、2番目の列が回答結果、3番目の列が2番目の列の回答結果に対する2011年の回答割合、4番目の列が2番目の列の回答結果に対する2013年の回答割合を表示する。

設問項目 回答結果 2011年 2013年
設問7:アクセシビリティに配慮した電子書籍の出版を困難にしている要因 1. 手間・コスト 47(35%) 29(38%)
2. 著作権処理に関する問題 37(27%) 15(20%)
3. 電子書籍販売に利用しているストアが読み上げ等の機能に対応していない 22(16%) 16(21%)
4. アクセシビリティに関する情報が不足している 29(22%) 16(21%)
設問8 自由記述

 自由記述欄からは、大きく分けて1)アクセシビリティを達成するための包括的な仕組みの不備を指摘するもの、2)特殊な事例により対応が困難を指摘するもの、3)権利処理の問題を指摘するもの、などが挙げられた。

1)アクセシビリティを達成するための包括的な仕組みの不備を指摘するものとしては、下記の意見が述べられた。

  • EPUBを中心とするアクセシビリティにも取り組めるフォーマットを採用しておりますが、ビューアやデバイスが未対応であることが多いため、現時点では個別対応が必要な状況
  • 出版社が制作する電子データを別途(障害者対応)専用に用意するのがコストや工数、管理面でとても困難
  • 読み上げ等技術的な課題を個々の社が対応すると形式が乱立し、普及がかえって困難になる可能性が懸念され(る)

 また、2)特殊な事例により対応が困難である点を指摘するものとしては、下記の意見が述べられた。

  • 外国語を含む二言語の書籍が多いため、技術的なハードルが高くなってしまう
  • 専門用語の読み上げルールがなく苦慮しています
  • 数式や化学式など手間がかかるケースだと読者のニーズと開発コストの兼ね合いなどをどうとらえるかが難し(い)

 最後に、3)権利処理の問題を指摘するものとしては、下記の意見が述べられた。

  • 書籍に含まれている図画、新聞記事等の権利処理の問題
  • 著作権・著作物に含まれるその他の権利につき、少なくとも紙媒体を出版した出版社等がオプトアウト方式で利用できる仕組みが必要
  • (供託を前提に)事後の権利処理及び支払(交渉)でよしとする法改正がなされない限り、図版の削除や、「顔」の処理など、加工にて手間とコストが掛かり、実際に電子化を断念する事態になります。電子化を進める団体で是非この方向で働きかけをしていくべきだと思います。

4.まとめ

 電子書籍の出版経験の詳細に関する前半の質問項目からは、電子書籍のアクセシビリティに関するハード・ソフト両面の状況が、不充分ながらも整備されてきたことを反映して、出版制作サイドの現場に大きな進歩があったことが見て取れた。例えば、設問2からは、2011年に実施された調査結果と比べると、2013年はEPUBフォーマットがより多く採用されるようになったことが分かる。また、設問3として設けたEPUBフォーマットを採用している際の形式に関しては、リフロー型が過半数を占めていた。これは、総務省「コンテンツ緊急電子化事業」において制作された電子書籍の大半がフィックス型あったことを考えると、出版社におけるアクセシビリティの意識が高まった結果であると考えられる。

 アクセシビリティへの意識に関する後半の設問項目からも、出版社サイドの明確な意識の変化が感じられた。設問5においてはわずかながらDRMフリーでの販売がなされている実態が明らかになり、自由記述においてもDRMに関する明確な意見が述べられた。

 アクセシビリティに対応する方法を問うた設問6においては、2011年の調査結果と比して、アクセシビリティに配慮した電子書籍を出版する予定のない出版社の割合が35%から26%へと減少した。一方で、音声読み上げ機能に対応したストアで販売する出版社の割合が増えた。また、「テキストデータを提供」することによって対応すると回答した出版社の割合は変わらないが、「DRMフリーで提供」の割合は増加した。アクセシビリティに配慮するための「対応の仕方がわからない」と回答した出版社も、27%から17%に減少している。これらの結果は、電子書籍に関する議論において見落とされがちであった読書障害者の存在が、関係者の意識において存在感を増してきたことを示唆している。

 DRMは、使い方によってはTTSによる文字情報へのアクセスを阻害することがある。例えば、Adobe社のAcrobatを用いてPDFを作る際、セキュリティを高めるために「スクリーンリーダーデバイスのテキストアクセスを有効にする」チェックリストを外してしまっている事例が散見される。しかし、本アンケートの計画当時、日本国内では著作権者の利権の保護を優先する議論が多く聞かれるため、DRMとアクセシビリティに関する議論はあまり活性化していないのではないかと考えていた。しかし、アクセシビリティに関する意識に関する設問項目からは、DRMに関して積極的に考えようとする姿勢の出版社が存在することが明らかになった。設問5において実際にDRMフリーで販売したことのある会社が4社あることを考えると、流れはアクセシビリティの高い電子書籍販売の方に傾き始めているといえるのかもしれない。今後、DRMとアクセシビリティをめぐる議論が日本においてどのように展開されるのかに注目したい。

 アクセシビリティへの対応を困難にしている要因を問うた設問7に関しては、「ストア未対応」を理由に挙げる出版社が増えている。このことは、電子書籍のアクセシビリティに関するハード・ソフト両面の状況が整備されてきたとはいえ、まだ途上であることを意味している。引き続き、出版社だけでなくストアや電子書籍制作会社も含めて、アクセシビリティに関する意識を高めていくことが重要であることを示唆している。また、「手間・コスト」や「著作権処理」に関する問題も、自由記述欄に述べられる事例の多さからも、継続して大きな課題として残っていることが示唆された。