出版社アンケート / IRIS


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『国際公共経済研究』第23号 平成24(2012)年9月

<研究ノート>電子書籍アクセシビリティに関する出版社アンケー卜

山ロ翔、青木千帆子、植村要(立命館グローバル・イノベーション研究機構)
松原洋子(立命館大学大学院先端総合学術研究科)

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※本研究ノートは、国際公共経済学会(http://ciriec.com)の学会誌、『国際公共経済研究』に掲載されたもので、著作権は同学会に帰属しています。



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  <研究ノー卜>電子書籍アクセシビリティに関する出版社アンケート
  A questionnaire survey of publishers about the accessibility of e-books.

  立命館グローバル・イノベーション研究機構 山口翔、青木千帆子、植村要
  立命館大学大学院先端総合学術研究科 松原洋子
  Ritsumeikan Global Innovation Research Organization Sho YAMAGUCHI, Chihoko AOKI, Kaname UEMURA
  Ritsumeikan Graduate School of Core Ethics and Frontier Sciences Yoko MATSUBARA

  ABSTRACT:

 This paper attempts to give an outlook on the current state regarding the efforts made by publishers to improve the accessibility of e-books. Authors conducted a questionnaire survey with 135 publishers asking about the opinions held by those working in the industry regarding the issue of accessibility. The results show that the initial concrete measure that has to be implemented in order to ensure the accessibility of e-books is to begin the process of sharing or information among the publishers.

  キーワード:電子書籍、アクセシビリティ、出版社
  Keywords: e-books, accessionity, publishers

  1.はじめに

 これまで視覚障害者をはじめとする読書障害者(★1)の多くは、印刷された書籍を読むことが困難であるため、 ボランティアや福祉機関の支援のもと、点訳や音訳を通して読書をしてきた。IT技術の普及以降、スキャナで紙の本を読み取り、OCR処理を行うことにより、支援の現場でも印刷物からテキストデー夕を抽出することが可能になった(石川 2004)。テキストデータは自動点訳ソフトや音声読み上げソフトで点字や音声に変換 できるため、点訳や音訳の作業の効率化が図られるようになった。しかし、このような方法での書籍のテキストデータ化には依然として多大なコストと時間がかかリ、読書障害者が読みたいときに読みたい本を読める状況にはない。例えば、1冊の本を点字や音声に変換して読書可能にするために、テキストデータ化して校正するのに要する人件費は、立命館大学での実践例では約3~4万円、期間は早くて1か月程度を要する (植村・山口・櫻井・鹿島 2010)。また、一部の出版社からはテキストデータが提供されているが、多くの場合提供はなく、いわゆる「自炊」に頼るほかないというのがこれまでの現状である。
 そこに、2010年の「電子書籍元年」が訪れた。電子書籍の中には、パソコンやブックリーダー等に組み込 まれた音声読み上げ装置で発売当初から直接聞いて読書することができるものが登場した。つまり、電子書籍が普及すれば、電子書籍内のテキストデータを音声読み上げ機能を通じて読み上げることができる。電子書籍市場が立ち上がることで、これまで点字図書や録音図書に頼って読書を行ってきた多くの読書障害者も、一読者として書籍を購入・利用する事が期待される。つまリ、障害者は健常者と同じタイミングで「読みたいときに読みたい本を読む」ことが可能になる。実際に米国では、すでにAmazonのKindleや、AppleのiPadで購入した電子書籍の多くが読み上げ可能な形となっている。そのためには、電子書籍ならではの、文字の拡大機能や音声読み上げ機能といった、「アクセ

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シビリティ機能」が必要となるが、日本の現状ではそうした電子書籍や機能はほとんど普及していない。
 アクセシビリティ機能を備えた電子書籍の普及実現のためには、このような機能に対応した電子書籍フォーマット、デバイス、ストアのビューア・アプリなどの条件が揃う必要がある(山ロ 2011)。本研究では、このうち電子書籍作成の起点となる出版に注目した。先行研究には任意に選んだ出版社25社について、書籍のテキス卜データ提供状況を詳細に調査した植村 要(2008)があり、テキストデータの提供/非提供をめぐる出版の状況とその背景を具体的に知ることができる。しかしこの論文は、印刷物として出版された書籍のテキストデータ提供に関心の中心があり、ボーンデジタルの電子書籍出版という文脈で検討されたものではない。また、調査が実施されたのは2007年8月から12月末であるため、2010年以降では電子書籍をめぐる出版社の環境は大きく変化していると考えられる。そこで本研究では、後述のように日本の電子出版における業界団体に所属し、電子書籍を出版している出版社を対象にアンケート調査を実施し、電子書籍と書籍アクセシビリティ向上への考えと取り組みに関する、出版社の現状を明らかにすることを目的とした。

  2.方法  

 調査にあたっては、立命館グローバル・イノベーション研究機構プログラム「電子書籍普及に伴う読書アクセシビリティの総合的研究」(http://r-iris.jp/)の「出版社アンケート実施チーム」が実施主体となった(★2)。
 アンケートの実施期間は、2011年11月21日~2011年12月31日である。アンケート調査の実施対象は、1) 一般社団法人日本電子書籍出版社協会に所属する出版社、2) 一般社団法人電子出版制作・流通協議会に所属する出版社、3) 日本電子出版協会出版社、4) 電子書籍を考える出版社の会に所属する出版社のうち、『出版年鑑2010』に掲載されている出版社住所録に出版社として掲載され、書籍を中心に出版している出版社、合計135社とした。アンケートは、質問紙表を各出版団体事務局よりEメール、ファックスあるいは会議の場を介して配布し、Eメール、ウェブフォームにて直接回答してもらう方式、および回答用紙を各出版団体事務局より返送してもらう方式にて実施した。
 質問項目を表1に、アンケートに用いた質問紙票を図1に、ウェブフォームのスクリーンショットを図2に示す。質問は7項目から構成され、主に電子書籍出版経験に関するもの、テキストデータ提供経験に関するもの、書籍のアクセシビリティに関するものの3つに分類される。

  3.結果と考察:アンケートに見る電子書籍市場の現状

 前述の通り、本アンケートは1.電子書籍出版経験に関するもの、2.テキストデータ提供経験に関するもの、3.書籍のアクセシビリティに関するものに大別される。以下では各項目について詳細に見ていく。

  3-1 電子書籍出版経験

 アンケートではまず、電子書籍の出版経験について質問した。結果を図3に示す。回答のあった71社のう

  表1 アンケート調査 質問項目

  • (1) 御社は今までに、電子書籍を出版したことはありますか。
  • (2) 電子書籍は次のうちどのようなデータ形式で出版されましたか。
  • (3) 電子書籍は次のうちどのストアで出版されましたか。
  • (4) 電子書籍のストア、データ形式によっては、ストアで販売した形式のままで音声読み上げや点字変換が可能となり、アクセシビリティが高まることがあります。読書障害者のアクセシビリティに配慮した電子書籍を出版する場合、御社はどのような方法で対応、あるいは検討されますか。
  • (5) アクセシビリティに配慮した電子書籍の出版を困難にしている要因は、何であるとお考えでしょうか。
  • (6) 御社は今までに、視覚障害等で読書が困難であるという理由で、紙の本のテキストデータ提供を依頼されたことはありますか。
  • (7) その他、電子書籍に関して御社のご意見がございましたら自由にお書きください。

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ち電子書籍の出版経験がある出版社は64社、90.1%であった。
 続いて、電子書籍の出版経験がある出版社64社を対象に、出版された電子書籍のデータ形式について質問した。選択肢は、1.XMDF(★3)、2.画像PDF(★4)、3..book(★5)、4.テキストつきPDF、5.EPUB(★6)、6.その他であった。本調査においては、文字が画像化されているか、いないかは音声読み上げ対応において非常に重要なポイントであるため(★7)、画像PDFとテキストつきPDFに分けて設問を設置した。
 結果を図4に示す。XMDFによる出版経験のある出版社が最も多く42社、画像PDFによる出版経験のあ

図1 アンケート調査質問紙票.jpg

  図1 アンケート調査質問紙票

図2 アンケート調査ウェブフォーム.jpg

  図2 アンケート調査ウェブフォーム

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る出版社が32社、テキストつきPDFが21社、.bookが28社、テキストつきPDFが21社、EPUBが6社という結果がえられた。また、その他と回答した出版社の採用したフォーマットとしては、MCC(★8)が11社採用されていたのに加え、BookSurfing(★9)が3社、ActiBook(★10)、CEBX(★11)、txt、アプリケーション、音声のみXMDF、iアプリ、独自フォーマット(PDFベース)という回答がそれぞれ1社ずつあげられた。
 また、電子書籍の出版経験がある出版社64社には、電子書籍を販売したストア(オンライン書店)についても質問した。選択肢は、1.BOOK☆WALKER(★12)(角川)、2.BookLive(★13)、3.BookPlace(★14)(東芝)、4.BOOKPUB(★15)、5.BooksV(★16)(富士通)、6.Discover(★17)、7.GALAPAGOS STORE(★18)(Sharp)、8.honto/2Dfacto(★19)(docomo)、9.LISIMO Book Store(★20)(au)、10.Raboo(★21)(楽天)、11.ReaderStore(★22)(Sony)、12.Softbankブックストア(★23)、13.TSUTAYA eBOOKs(★24)、14.VOYGER STORE(★25)、15.Yahoo!ブックストア(★26)、16.紀伊國屋書店BookWeb(★27)、17.パピレス(★28)、18.パブー(★29)、19.パブリ(★30)、20.ビットウェイブックス(★31)、21.自社ストアをアプリで提供、22.その他であった。
 結果を図5に示す。最も販売店が多かったのは、honto/2Dfacto(docomo)で40社、続いてBookLiveが35社、ReaderStore(Sony)が32社、GALAPAGOS STORE(Sharp)が32社、パピレスが30社、LISIMO Book Store(au)が29社、紀伊國屋書店BookWebが25社、ビットウェイブックスが24社、パブリが24社、Raboo(楽天)が22社、BookPlace(東芝)が20社、Softbank ブックストアが18社、BooksV(富士通)が18社、TSUTAYA eBOOKsが15社、自社ストアをアプリで提供されている出版社が13社、Yahoo!ブックストアが11社、VOYGER STOREが9社、パブーが4社、BOOK☆WALKER(角川)が4社、BOOKPUBが3社であった。その他と回答した出版社が電子書籍を販売した書店としては、App store(★32)が11社、e-Book Japan(★33)が3社挙げられていたのに加え、自社


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HP、直営電子書店、シナノブックス(★34)、web-DE-book(★35)、教科書ガイドWEBショップ(★36)、紀伊國屋書店Net Library(★37)、丸善Knowledge Worker(★38)、読書端末にバンドル、JMAC(★39)、雑誌オンライン(★40)、ガラケー系電子書店(★41)、Android Market(★42)、au oneマーケット(★43)、DA BOOK、i楽譜style(★44)、ぷりんと楽譜(★45)という回答が各1件寄せられた。

  3-2 テキストデータ提供実態

 紙に印刷された本を視覚障害者が読もうとするときの従来の方法として、ボランティアなどの助力によって朗読したものを録音する音訳か、点字に変換する点訳での対応があげられる。点訳の作業は、自動点訳ソフトが用いられるが、これにはテキストデータが必要になる。そこで、従来は、スキャナとOCRソフトを用いて紙の本からテキストデータを作成してきた。しかし、この作業では、既にデジタル化されている出版者のDTPによる組み版工程を経て印刷された本をスキャニングして、再度データにするという工程を踏むことになる。また、OCRソフトによるテキストデータ化は、文字の誤認識を修正する必要があり、ここに膨大な労力を要する。実際には、DTPの段階で、組版データの内部にテキストデータが存在しているため、本来ならばこのデータを点訳等に流用出来た方が、作業量は大幅に削減できる。このため、視覚障害者や点訳を行うためのボランティア団体の施設、図書館等は、出版者に対してテキストデータの提供依頼を行っている場合がある。
 そこで、今までに、視覚障害等で読書が困難であるという理由で、紙の本のテキストデータ提供を依頼されたことがあるか、およびそのような依頼に対する対応の実態について質問した。

 結果を図6に示す。「依頼されたことがあり、提供した」と答えた出版社は、12社(16.9%)であり、「依頼されたことがあるが、提供はしなかった」と答えた出版社が、5社(7.0%)であった。一方、「依頼されたことはない」と答えた出版社は、54社(76.0%)であった。これらの出版社が提供を依頼されたときに、提供をするかしないかについては、不明である。
 アンケートからは7割以上の出版社がテキストデータの提供依頼を受けたことがないという現状が浮き彫りとなった。これは、テキストデータ提供のニーズが無いのか、こうした仕組みが視覚障害者の間においても一般的な物として知られていないかは本アンケートだけでは判らないため、より詳細な調査が必要な項目である。
 一方、2割強の出版社がテキストデータ提供の依頼を受けていた。テキストデータの提供を行う場合、および行わない場合に、出版社が挙げる理由については、限られた出版社に対してではあるが、前出の植村(2008)による調査がある。その理由としては、テキストデータを図書館等には渡すが、複製が無制限に自由なデータを個人に渡すことを懸念する声や、覚え書きを交わす上で複製を許諾するなど、様々な事例が見受けられる。しかし、実態として出版社と図書館、ボランティア或いは個人間での統一的なテキストデータ提供と利用の枠組みが形成されているわけではない。

  3-3 アクセシビリティに関する意識

 従来は、紙の本からOCRを経てテキストデータを作成したり、出版者のテキストデータ提供を用いたりして、点字データの作成や、音訳データを作成してきたが、現在では技術革新により、普及の始まった電子書籍を購入して、そのまま電子書籍のデータを音声読み上げ機能を用いて利用することも可能となった。実際に、米国のAmazon社の電子書籍端末Kindleでは、Kindleストアで購入した大多数の書籍を音声読み上

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げ機能を用いて「聴く」事が出来る。Apple社のiPad等でも、iBooksストアで購入した書籍を同様に読むだけでなく「聴く」事が可能である。米国の電子書籍市場ではこうした取り組みが実現段階に至っており、障害者も、健常者も、同じタイミングで、読みたいときに読みたい本を聴く事ができるのである。しかしながら、日本の電子書籍市場では、多数の電子書籍デバイス、電子書籍ストアが立ち上がりをみせ、電子書籍数も増加しつつある中で、こうした「聴く」ことの出来る電子書籍はわずかである。山口(2011)が述べる通り、この要因には様々なものがあるが、本アンケートでは、出版者を対象として、電子書籍のアクセシビリティ全般に対する意識調査を行った。

 設問では、出版社が読書障害者のアクセシビリティに配慮した電子書籍を出版する場合、検討、対応する方法について質問した。回答は、複数回答可として該当するもの全ての回答を求めた。結果は図7の通りである。最も回答が多かったのは、「この種の電子書籍の出版を検討していない」の27社(38.0%)であった。続いて多かったのが、「関心はあるが、具体的な方法が判らない」の21社(29.5%)であった。その他には、「電子書籍を音声読み上げ対応のストアで販売する」の14社(19.7%)、「求めのあった個人・図書館等に対し書籍本文のテキストデータを提供する」の12社(16.9%)、「電子書籍をDRMフリーで販売し支援デバイスで利用してもらう」の3社(4.2%)という結果となった。
 最後の3つの回答を行った出版社は、既にアクセシビリティに配慮した電子書籍の出版について、何らかの対応、少なくとも検討をしていることが伺える。これらの回答を得た出版社については、アクセシビリティについて一定の前向きな姿勢をもっているといえ、何らかのインセンティブが働けば、実際に出版する可能性が考えられる。
 回答では「この種の電子書籍の出版を検討していない」の27社が最も多いが、今後、「関心はあるが、具体的な方法が判らない」の21社について、アクセシブルな電子書籍を出版するためのワークフロー及び必要なスキルが具体的なものとなれば、実際にアクセシブルな電子出版を行う可能性も考えられる。
 最後に、アクセシビリティに配慮した電子書籍の出版を困難にしている要因についての質問を行った結果が、図8である。「手間・コスト」で想定しているのは、電子書籍を音声読み上げ対応にするために新たに追加して必要となる作業やそのための人的コストに対する懸念である。「著作権処理」では、契約の締結方法によっては、再許諾が必要となる場合が想定される。「ストア対応」では、出版社側が電子書籍の音声読み上げに対応する意向を持っていても、現実には電子書籍を販売しているストアが音声読み上げ機能に対応しておらず、実現手段が皆無に近いことが考えられる。「アクセシビリティに関する情報が不足していること」では、出版社側が読書障害者の書籍アクセシビリティ向上に関心をもっていたとしても、どこからどのように手をつけてよいのか、そういった情報が不足していてわからない場合を想定した。

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 結果は、「手間・コスト」を理由にあげる出版社が47社、「著作権処理に関する問題」を理由としてあげる出版社が37社、「アクセシビリティに関する情報不足」を理由としてあげる出版社が29社、「ストアの未対応」を理由にあげる出版社が22社であった。このことから、電子書籍アクセシビリティを実現する上での課題は、何か一つをクリアすれば進む、というものでなく、複合的な問題を一つ一つ解決していかなくてはならないことが伺える。

  3-4 自由記述

 上記までの設問項目以外に、アンケートでは自由記述欄を設けた。そこでは以下の記述が見られた。指摘の数々は、電子書籍のアクセシビリティを考える上での多様な示唆を得ることができる。ここでは記述の傾向にあわせて5つに分類・整理した。

分類① 電子書籍そのものに対する懸念、様子見

 まず、電子書籍そのものに対して、現段階では様々な要因から本格的な取り組みは時期尚早と捉えている意見として以下の3つがみられた。

ア)まずは看護師向けの電子書籍を展開したいが、コストや需要を見ながら取組む。

イ)(自社刊行物の)電子化、および配信も社内で議論している。しかしながら、電子書籍ポータルサイトが乱立しすぎで未だ黎明期であると判断せざるを得ないこと、音楽書のような専門書の電子配信をしても、配信にかかるコスト以上の売上予測ができにくいこと、などからしばらく凍結・保留状態である。

ウ)サイト運営者との収益分配構造が、現状の取次と同程度の割合に整備される状況であれば、電子出版へのシフトが進むと考えられるが、現状の料率では、中小出版社は厳しいものと考える。

分類② 電子書籍展開に積極的な見解

 次に、電子書籍の特性と、自社出版物の傾向から、積極的な展開を想定する意見として次の意見がみられた。

エ)弊社の出版物は地図、旅行ガイドブックが主力であり、すべて実用的なもの。電子コンテンツとしては、もっとも親和性が高いと認識しており、書籍スタイルにこだわらず、あらゆるフォームに積極的に取り組んでいこうと考えている。

分類③ 電子書籍アクセシビリティ向上に前向きな声

 次に、電子書籍のアクセシビリティを向上させる上で、前向きな取り組みを検討している意見として、以下の5つがみられた。

オ)2012年夏を目標にePub3(DRM付き)を提供する販売店と提携し配信実験を開始予定。そのePub3作業工程でDAISY3版も作成し音声朗読(肉声、オーディオブック)を提供する作業ラインを策定する予定。DAISY3での販売がなければ実験というスキー

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ムでサピエへの提供を考えている。 

カ)アクセシビリティに関しては、EPUBフォーマットが考慮されており、当社も導入を検討。今後、国際標準であるEPUBに対応した電子書籍端末が市場に増えることにより、閲覧環境が飛躍的に改善されることと期待している。

キ)地方の出版社として、貴重な地方文化を守る為に電子書籍の配信サービスを開始した。音声・動画の同時配信のシステムを独自に開発し、アクセシビリティの優れた電子書籍の配信を拡大したいと思っている。

ク)近々、書籍刊行+視覚障害などの方向けに個人利用限定で透過txt付PDFファイル提供(申込方式)を予定。

ケ)電子書籍は当面もうからないので、むしろ社会貢献に役立てたいと考えており、このことは社の方針としても、一昨年確認されている。以前目の不自由な子どもたちのために読み上げテープを図書館が作成した際に、人名などの読みを全て著者に再確認するお手伝いをした。
分類④ 電子書籍アクセシビリティ向上に関する懸念・要望

 最後に、電子書籍アクセシビリティ向上を検討する上での懸念や要望として、以下の4つの意見が見られた。

コ)電子出版、販売サイトが乱立するも視覚障害者を含め音声朗読のニーズがある人が集まるサイトが現時点では不透明である。

サ)読み上げ対応にするには著者への説明も必要なので、Book Placeのようなサービス独自仕様だけで無く、一般規格のようになったら普及するのでは無いかと思う。(著者側への提案も、しやすくなるため)

シ)業界全体としてアクセシビリティに関する理解や認識を高める事が重要と考える。

ス)弊社で発行する書籍の多くが、側注・表・脚注などを含む複雑なレイアウトであるため、読み上げは困難と思われる。こういったたぐいの書籍についての読み上げのルールが確立されると、取り組みがしやすいと思う。弊社では検定教科書を発行しており、今年度より拡大教科書を発行しているが、作成のための費用負担が重くのしかかっている。高等学校の教科書は1冊当たりの頁数が300ページを超えるものもあり、拡大版を作成すると、何分冊にもなってしまう。そのレイアウト費用・少部数のカラー印刷費用などは多少の定価アップではとうてい吸収できるものではない。何分冊にもなった書籍が果たして視聴覚障害者の利便性を向上させているのかも疑問である。デジタルデータ提供によって対応できることがあれば、そちらで対応できると本当に良いと思う。

 以上の様に、自由記述には電子書籍市場及びそのアクセシビリティの考え方について、多数の意見が寄せられた。アクセシビリティ向上を考え、ノウハウなどを共有するための「場」の必要性が伺える。

  4. おわりに

 現在、電子書籍市場は発展の途上であり、電子書籍市場拡大に伴う懸念や課題がいまだ山積している。そのため多くの出版社にとっては電子書籍とアクセシビリティを結びつける前段階の状況であるともいえ、日本の電子書籍市場における「アクセシビリティ」のみに焦点をあてた議論を十分に行える条件が整っているとはいえない。
 本アンケート調査では、アクセシビリティに配慮した電子書籍出版を困難にしている要因について、手間・コストと回答した出版社が多かったが、著作権処理、情報不足、ストアの問題についても、困難の要因として重視されていることが明らかになった。一方で、書籍のアクセシビリティに「関心があるが具体的な方法がわからない」と回答した出版社が今後、その関心

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をもとにアクセシビリティ向上に取り組む様になれば、6割以上の出版社が書籍のアクセシビリティ向上にむけた対応を行っていくものと期待できる。そのためには、上記の様な困難の要因を具体的に解決すべく、アクセシビリティを確保するための具体的なワークフローについて、情報を共有していくことが鍵となるだろう。
 本調査の結果からもうかがえるとおり、電子書籍のアクセシビリティ向上を困難にしている要因は複雑で、その実現に近道は無い。しかし、既に具体的な取り組みを行っている出版社や寄せられた数々の見解からも、アクセシビリティ向上にむけた方向性は徐々にではあるが見えてきているとも考えられる。今後、この様な研究が電子書籍アクセシビリティの課題を俯瞰的に見るきっかけとなって、継続的な議論を繋いでいくことが肝心であると考える。本プロジェクトの「出版社アンケート実施チーム」では、電子出版アクセシビリティに関する出版社の経時的変化を追うために、調査を継続する予定である。それをもとにして各方面への提言をおこなっていく。

謝辞:
 本アンケート調査には、71社もの出版社の方々にご協力頂いた。また、本調査に際しては、一般社団法人日本電子書籍出版社協会、一般社団法人電子出版制作・流通協議会、日本電子出版協会、電子書籍を考える出版社の会の事務局の皆様に、多大なるご尽力を賜った。ここに深く感謝申し上げる。

*本研究は、立命館大学のグローバル・イノベーション研究機構「電子書籍普及に伴う読書アクセシビリティの総合的研究」(IRIS: Integrated Research ofAccessible Ebooks: Interfaces & Services)の成果である。

参考文献

石川准(2004)『見えないものと見えるもの―社交とアシストの障害学』医学書院.
植村要(2008)「出版社から読者へ、書籍テキストデータの提供を困難にしている背景について」『Core Ethics』4:13-24
植村要・山口真紀・櫻井悟史・鹿島萌子(2010)「書籍のテキストデータ化にかかるコストについての実証的研究――視覚障害者の読書環境の改善に向けて」『CoreEthics』6:37-49
山口翔(2011)「電子書籍配信経路とアクセシビリティの考察―入手性と利便性向上のために」『国際公共経済研究』(22): 112-128

★1 視覚障害者に限らず、四肢の不自由やディスレクシア等、読む事に困難をかかえる読者。
★2 「出版社アンケート実施チーム」のメンバーは松原洋子(代表)、青木千帆子、植村要、山口翔である。「電子書籍普及に伴う読書アクセシビリティの総合的研究」(IRIS :Integrated Research of Accessible Ebooks: Interfaces & Services)では、日本での電子書籍普及における書籍のアクセシビリティに関する諸問題を学術的に分析し、必要に応じて政策提言を行うことを目的としている。
★3 XMDFとは、シャープにより提唱されているフォーマットであり、GALAPAGOSやブックリスタ、ソニーリーダーが採用しているフォーマットである。
★4 PDFはアドビ社が開発したフォーマットである。
★5 .bookはボイジャーが開発したフォーマットであり、携帯電話向け電子書籍で多く採用されている。
★6 EPUBとは、アメリカの電子書籍の標準化団体IDPFが普及促進しているフォーマットで、英語圏における電子書籍のフォーマットとしては最も普及したものとなっている。
★7 3-2に後述するが、(1)電子書籍は画像だけで構成されるもの、(2)テキストデータを元にデバイス上での表示を行うもの、(3)画像に「透明テキスト」等と呼ばれるテキストデータを埋め込むも

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のがある。PDFは(1)、(3)に対応し、この違いによって、文書内の文字検索が行えたり、音声読み上げが行えたりするため、本質問項目では別けて表記した。
★8 MCCとは、株式会社モリサワが開発した組版データから、iPhone/iPadおよびAndroid用の電子書籍アプリケーションを作成するソフトMC BOOKで作成されるファイルフォーマットである。http://www.morisawa.co.jp/biz/products/mcbook/
★9 BookSurfingとは、携帯電話向け電子書籍を閲覧するためのビューア名である。多くは.bookが採用されているが、その他のフォーマットの可能性を排除できないため、回答をそのままカウントした。http://www.infocity.co.jp/booksurfing/index.html
★10 ActiBookとは、Digit@Link ActiBook(デジタリンクアクティブック)を正式名称とする、スターティアラボ株式会社が開発した電子書籍作成ソフトである。http://ebook.digitalink.ne.jp/index.html
★11 CEBXとは、北大方正集団公司(方正)により開発されたフォーマットである。
★12 BOOK☆WALKERとは、角川グループが直営する電子書籍ストアである。http://bookwalker.jp/pc/
★13 BookLiveとは、株式会社BookLiveが経営する電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。http://booklive.jp/
★14 BookPlaceは、株式会社東芝が経営する電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。脚注xiiiにて言及したBookLiveと提携して事業を展開している。http://toshibabookplace.booklive.jp/
★15 BOOKPUBとは、三和書籍と株式会社モバキッズを中心に、複数の事業者によって共同で運営されている電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。http://bookpub.jp/commons/first
★16 BooksVとは、富士通株式会社が経営する電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。http://booksv.fmworld.net/
★17 Discoverとは、株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワンが運営する電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。http://store.d21.co.jp/
★18 GALAPAGOS STOREとは、シャープ株式会社が運営する電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。http://galapagosstore.com/web/btop
★19 honto/2Dfactoとは、株式会社トゥ・ディファクトが運営する電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。http://honto.jp/ebook.html
★20 LISIMO Book Storeとは、KDDI株式会社がauのケータイやスマートフォンに特化して販売する電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。
★21 Rabooとは、楽天株式会社が運営する、電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。
★22 ReaderStoreとは、ソニーマーケティング株式会社が運営する、電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。http://ebookstore.sony.jp/
★23 Softbank ブックストアとは、ソフトバンクモバイル株式会社が、SoftBank スマートフォンを対象に電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。http://mb.softbank.jp/mb/smartphone/service/bookstore/
★24 TSUTAYA eBOOKsとは、株式会社TSUTAYA.comが運営する、電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。http://tsutaya.com/ebooks/pc/
★25 VOYGER STOREとは、株式会社ボイジャー、電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。http://voyager-store.com/
★26 Yahoo!ブックストアとは、株式会社アイフリー

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ク、株式会社宙出版、株式会社角川コンテンツゲート、株式会社講談社、株式会社サード・ライン、株式会社集英社、株式会社小学館、ソフトバンククリエイティブ株式会社、株式会社竹書房、デジタルカタパルト株式会社、株式会社白泉社、株式会社バンダイチャンネル、株式会社パピレス、株式会社ビットウェイ、株式会社ぶんか社、menue株式会社、株式会社リイド社が共同で運営する、電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。http://bookstore.yahoo.co.jp/;_ylt=A7dPJsgO9wRQ_18Bkgccjvt7
★27 紀伊國屋書店BookWebとは、株式会社 紀伊國屋書店が運営する、電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。正式名称を紀伊國屋書店BookWeb / BookWebPlus(Kinoppy)という。http://bookweb.kinokuniya.co.jp/
★28 パピレスとは株式会社パピレスが運営する、電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。http://www.papy.co.jp/
★29 パブーとは、株式会社ブクログが運営し、電子書籍の作成から販売までを手掛けるオンライン書店である。http://p.booklog.jp/
★30 パブリとは、一般社団法人日本電子書籍出版社協会が主監し、株式会社モバイルブック・ジェーピーが運営する、電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。http://www.paburi.com/paburi/Default.asp
★31 ビットウェイブックスとは株式会社ビットウェイが、電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。http://books.bitway.ne.jp/meng/cp.php?req=top&site=book
★32 App storeという回答は、1つの書籍を1つのアプリとして販売することを指していると思われる。
★33 e-Book Japanとは、株式会社イーブックイニシアティブジャパンが電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。http://www.ebookjapan.jp/ebj/guide/index.asp
★34 シナノブックスとは、印刷会社である株式会社シナノグループが運営する電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。http://www.shinanobook.com/
★35 web-DE-bookとは、株式会社教育出版センターが運営し、教科書を中心に電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。http://www.web-de-book.com
★36 教科書ガイドWEBショップとは、あすとろ出版式会社が運営し、教科書ガイドに特化してインターネット上で販売するオンライン書店である。http://www.asutoro.co.jp/shop/
★37 紀伊國屋書店Net Libraryとは、株式会社紀伊国屋書店が主に図書館に対し、電子化された学術書や専門書を販売するオンライン書店である。http://www.kinokuniya.co.jp/03f/oclc/netlibrary/
★38 丸善Knowledge Workerとは、丸善株式会社が主に図書館に対し、電子化された学術書や専門書を販売するオンライン書店である。http://kw.maruzen.co.jp/nfc/page.html
★39 JMACという回答は、おそらく株式会社ジェイマックシステムが運営する医療従事者向けに電子書籍をインターネット上で販売するサイト「eBookStore」で発売したことを指していると考えられる。http://www.m2plus.com/
★40 雑誌オンラインとは、株式会社ウェイズジャパンが電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。http://www.zasshi-online.com/
★41 主流になりつつあるスマートフォン普及以前の、所謂フィーチャーフォン・携帯電話向け電子書籍プラットフォーム。
★42 Android Marketは、2012年3月にGoogle Playとサービス名称を変更している。Googleがが電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。https://play.google.com/store

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★43 au oneマーケットは、2012年3月にau Marketとサービス名称を変更している。
★44 i楽譜styleとは、株式会社ヤマハミュージックメディアが電子書籍をiPadに特化して販売するオンライン書店である。http://www.print-gakufu.com/special/18/
★45 ぷりんと楽譜とは、株式会社ヤマハミュージックメディアが電子書籍をインターネット上で販売するオンライン書店である。http://www.print-gakufu.com/